eyelessfish





すーっと水が染み込んでいくような
なめらかな懐かしいコンクリートの廊下を
あとをついて歩いていく。
階段を上った先の踊り場でぼくは一度立ち止まる。
町に空に光に呼ばれるような気がするのです。
もちろんそんなはずがないのはわかってますが。
ぼくはそれらすべてに感謝するのです。
彼女の生活を彩ったり見守ったり
簡単には進ませなかったりそっと寄り添ったり。
そんな町に。
涙を乾かす風や頭を冷やす風
吸い込んだらお腹がいっぱいになるような幸せな風が
彼女に吹いたことでしょう。
大事にしろよと言われるような気がするのです。
もちろんです。とぼくはその日差しに目を細めます。


すぐ近くの扉に入った彼女が
玄関から顔を覗かせます。

「早く来て。」


「うん」


その扉の向こうは甘く切ない空間で
ぼくはまたどっぷりとはまりこんで出れなくなる。
二人だけのその部屋も好き。
でも気づいてほしい。
ぼくたちはもっと多くのものに囲まれて生きてると。
あなたの町も好きなんです。



がしゃんっと閉まる扉、見つめ合うぼくら。
まだ本当のことが言えない。



遠くなっていく町の音に。




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