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eyelessfish



「ちょっと待ってて。」
ぼくはそう彼女に伝えると
ベビーカーを持ち上げるのを手伝った。
急に手が軽くなったお母さんは少し驚いたあと
にっこりと笑ってありがとうと小さく言った。
ぼくはごめんとあやまって戻ると
すぐに彼女の手を取って歩き出す。
彼女はいいのって微笑む。
けれど少しさみしそうな顔をする。


人に親切にしないで彼女を大切にすることなんかできるはずがない。
ぼくは大前提でそう思っている。

けれど彼女は違う。

ぼくたちさえよければいい。
あとはどうでも構わない。
1分でも1秒でも二人の時間が削られては困るのだ。


だからぼくは他人というものを意識し関わるとき
少しひやっとするような彼女の視線に触れるときがある。
そんなあなたが好きと言ってくれる一方で
沸々と沸き上がるものを抑えているように感じる。
きっと本当にそうなのだと思う。
ぼくのことが好きだけど嫌いなんだろう。
矛盾に苦しめられているのだろう。


ぼくは彼女との時間を削ってでも
他の人と過ごす時間を選んだ。
その人のためでもあったし
何よりも彼女のためだった。
あとで会えることを考えたら
一刻も早く二人だけの時間を作るためなら
ほんの1時間なんて平気だった。



「あなたは私より他の人のほうが大事なのよ。
みんなにいい顔をして、一番大切な人を失うの。
私はそれでもいいとあきらめなければいけない。
ずっとあなたを待っていつも後回しにされて
一人で待っていればいいのよ。」


ぼくはその言葉を理解しようと思って
こうやって覚えてしまうほど
何度も何度も繰り返した。
けれどもわからない。

一番大切な人にたどり着くために
大切なことや人を飛び越えていけない。
何年も一緒にいることを思えば
目の前の時間をそのために費やすのを惜しまない。

けれど彼女は違う。ぼくはそれを受け入れるべきか。


けれどもぼくは彼女に答えた。

「ぼくは変わらない。あなたと他の人は比べるものじゃないし。ぼくは一番大切な人にたどり着くために、周りの人もものも大事にする。それは変わらない。」

彼女はどうしてなの?
と、絶望のような顔をした。
ぼくもまた絶望の顔をした。


ぼくたちは別々に帰った。


何事もなかったかのように
天気がいいからピクニックに行こうと連絡が来る。
長い葛藤の末取り繕う彼女がかわいそう。


今日はぼくどんな顔で彼女に会えるだろうか。




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| 2015.04.09 10:46 | edit

Tさんへ

寒い朝も同じように寒いと言ってくださる存在のおかげで
なんだかあったかくなりました。
ありがとうございます。
ぼくを守るためなら何も恐れない何もいとわない
彼女の芯の強さに感謝しなければいけないときもあるのです。
ぼくは彼女に同じようにしてほしいとは望みません。
わかってくれるときがあればいいなあとは思います。
ぼくはぽくを続けますね。
ラスジマ | 2015.04.09 22:15 | edit